大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)2526号 判決

本籍

台湾省台南県東石区東石郷一九七番地

住居

大阪市東区横堀三丁目一六番地

会社社長

黄詩顕

大正八年二月一四日生

本籍

台湾省高雄市塩〓区公園二路一五四番地

住居

神戸市生田区三ノ宮一丁目一七番地 桂ホテル内

貿易商

王昇飛こと

王少起

大正三年一月一日生

本籍

朝鮮全羅南道霊岩郡鶴山面滝山里

住居

大阪市東淀川区三国町七一二番地

綿布小売商

下田こと

金判載

大正八年一二月一二日生

本籍

朝鮮慶尚南道峡山郡赤中面上部里

住居

大阪市東成区大成通一丁目四四番地 金平玉方

無職

山口こと

李永俊

大正二年五月三〇日生

右被告人黄詩顕、同王少起に対する外国為替及び外国貿易管理法違反、関税法違反、被告人金判載、同李永俊に対する覚せい剤取締法違反、麻薬取締法違反各被告事件について、昭和三二年七月三日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し被告人黄詩顕の原審弁護人西村承治およびその余の各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人黄詩顕の弁護人西村承治の上告趣意一について。

所論は違憲をいうが、憲法三七条にいう「公平な裁判所」とは構成その他において編頗な惧れのない裁判所という意味であり、憲法七六条三項にいう裁判官が良心に従うとは、裁判官が有形、無形の外部の圧迫、誘惑に屈せず、自己の内心の良識と道徳観に従う意味のものであつて、所論のような場合がこれに当らないことは、当裁判所の判例とするところであつて、論旨は採るを得ない。(昭和二二年(れ)一七一号、同二三年五月五日大法廷判決、集二巻五号四四七頁、昭和二八年(あ)一七一三号、同三二年三月一三日大法廷判決、集一一巻三号九九七頁参照。なお、所論判決原本の挿入文字に付いては、所論のような事実は記録上認められるが、右判決原本の挿入手続が違法になされたと認むべき何らの証跡のない本件においては、判決原本と謄本とが異るときは、特段の事情のない限り謄本に誤りがあるものと解するを相当とし、この点に関する原判示は是認することができる。)

また原判決が、被告人が中国人であるの故をもつて不平等に取扱つたと認むべき証跡は、何ら記録上存在しないのであつて違憲の主張はその前提を欠き採るを得ない。

同二について。

所論は単なる法令違反、事実誤認の主張で、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人王少起の弁護人岡田善一の上告趣意について。

所論は量刑不当の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人金判載の弁護人中川種治郎、同李永俊の弁護人沖源三郎の各上告趣意について。

所論は事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであつて、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない

よつて同四〇条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)

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